胃内視鏡検査の意義
胃がんは減っているのか?増えているのか?
がん検診などがんを減らす取り組みが効果を上げているのかを知るためには、がんになった人やがんで死んだ人の数を知る必要があります。一方で、日本は令和元年に高齢化率28%を超えて未曽有の超高齢化社会を迎えています。がんの大きなリスクのひとつである加齢の要素を除かないとがん対策の正しい評価はできません。そこで用いられるのが年齢調整を行った死亡率です。日本では1985年の人口ピラミッドの年齢分布を標準人口(モデル人口)として、年齢調整死亡率を計算しています。
近年胃癌は減少傾向と言われますが、果たしてそうなのでしょうか?確かに年齢調整死亡率で見ると胃がんの死亡率は減少傾向です。胃がんの主な原因はピロリ菌の感染であり、衛生状態が改善してピロリ菌の感染割合が減ったことや、ピロリ菌の除菌治療、胃がん検診、胃がんの治療の進歩などが理由として挙げられます。しかし、実際には高齢化社会において高齢者人口は増加しており、それによって実際の胃がん死亡率はわずかに減少しつつもほぼ横ばいで推移し、罹患率に至ってはむしろ上昇傾向となっていました。
どんなに医療が進んでも胃がんが身近ながんであることに変わりはなく、胃カメラで検査できる範囲の胃がんと食道がんを併せた場合の全がん中の死亡率は2位、罹患率は1位となり、胃カメラがいかに重要な検査であるかがお分かりいただけると思います。
胃がんの死亡率を減少させるために行われてきた検診のバリウム検査も胃がんの発見に有用な検査ですが、ある程度進行した状態にならないとがんによる胃壁の変化が判断できません。また、早期胃がんを判断する上で重要な赤や白などの色調の変化、微小血管の所見などは、バリウム検査ではわかりません。仮にバリウム検査で異常を指摘された場合には、精査のために結局胃カメラによる検査を受けることになります。便秘の方にはバリウムによる腸閉塞のリスクもありますので、最初から胃内視鏡検査をお受けになることをお勧めいたします。
胃内視鏡検査のメリットは胃がんの早期発見に優れていることだけではありません。胃がんの原因として最も重要なヘリコバクター・ピロリ感染による胃炎を発見し、できるだけ早い年齢でピロリ菌を除菌することが将来的な胃がんの予防に繋がります。胃内視鏡検査の普及はピロリ菌の感染率を減少させ、これを主因とする胃がんの罹患率の減少につながります。また既に起こってしまったピロリ菌による慢性胃炎を定期的にフォローアップすることで、今後起こりうる胃がんをなるべく早期に発見し、最終的には胃がんの死亡率の低下に寄与するものと期待されます。