飲み過ぎ・食べ過ぎや薬の副作用で急激に症状を起こす急性胃炎と、主にピロリ菌感染によって継続的な炎症を起こす慢性胃炎に分けられます。ピロリ菌感染がある場合には、炎症の再発予防としてピロリ菌の除菌治療が有効です。
胃は、食道から運ばれた飲食物を消化するとともに、入ってきた細菌などを殺菌するためにpH1~2という強い酸性の胃酸や消化酵素を分泌しています。胃粘膜は粘液に守られているので、胃酸や分解酵素に溶かされることはありません。ただし、粘膜を守るバリア機能にも限度があり、食べ過ぎや飲み過ぎなどでその限度を超えると胃粘膜が傷付いて炎症を起こします。これが急性胃炎です。
胃のさまざまな機能は自律神経によってコントロールされています。自律神経はストレスなどの影響を大きく受けるので、ストレスによって胃の状態が悪くなって胃炎を発症しやすくなることもよくあります。
一方、ピロリ菌感染による慢性胃炎は、ピロリ菌が周囲の強酸を中和するために分泌する毒素によって起こっています。胃に住み着いたピロリ菌は基本的に除菌治療以外で自然消滅することはないため、感染していると炎症を繰り返します。ダメージが積み重なった胃粘膜は修復力の低下や防御機能を持つ粘液の減少を起こしてしまうため、傷が深くなると胃粘膜が溶かされ傷が深くなる潰瘍を生じさせます。また、慢性的な炎症が続くと胃粘膜が萎縮して薄くなり、胃がん発症リスクが大幅に上昇してしまいます。
主な症状は、胸焼け、胃痛、むかつきや吐き気などですが、こうした症状は急性・慢性胃炎だけでなく、胃がんなど幅広い疾患でも起こります。胃がんは進行してから症状が現れるケースが多いため、症状があったら早めに受診することでより負担の少ない治療で治せる可能性が高くなります。胃の症状に気付いたら、専門医を受診して粘膜の状態をしっかり確認してもらいましょう。
急性胃炎の症状
症状が急激に現れます。
胃やみぞおちの痛みの他に、胸焼け・むかつき・吐き気・嘔吐、膨満感、不快感、吐血・下血などを起こすことがあります。
慢性胃炎の症状
食前の胸焼け、食後のむかつきや胃もたれ、胃やみぞおちの痛み、食欲不振などの症状を繰り返します。ただし、慢性的な炎症があっても症状を起こさないまま進行してしまうケースもあります。症状なく進行した場合も萎縮性胃炎などから胃がんを発症することもあるため、定期的な内視鏡検査による早期発見が重要です。
急性胃炎
飲み過ぎ・食べ過ぎ、唐辛子など刺激の強い香辛料の大量摂取、薬の副作用、ストレスなど
慢性胃炎
ほとんどの場合、ピロリ菌感染によって起こっています。再発予防にはピロリ菌を除去する除菌治療が有効です。
ピロリ菌感染について
ピロリ菌は乳幼児期に感染して胃の中にすみ続け、慢性的な炎症を起こします。炎症はゆっくりと進行して胃粘膜の萎縮を起こすと胃がん発症リスクが10倍以上になるとされています。感染原因は完全には解明されていませんが、汚染された井戸水などを介して感染することがわかっています。ただし、衛生環境が整った先進国中でいまだに日本のピロリ菌感染率が比較的高いのは、乳幼児期の口移しや食器共有などによる経口感染が起こっていると考えられています。そのため、子どもが生まれる前にご家族が除菌治療を受けておくことで次世代への感染予防につながります。
薬物療法で症状自体は効果的に解消できます。それに加えて、原因の除去、生活習慣の改善を行うことで根本的な治療につなげ、再発を防ぎます。ピロリ菌感染検査を行って陽性の場合には、除菌治療をおすすめしています。
急性胃炎
痛みの内容、はじまった時期、摂取した飲食物、服用している薬などをくわしくうかがいます。胃炎の症状は他の疾患とも共通していますから、深刻な病気ではないかを確認するために内視鏡検査を行います。内視鏡検査では食道・胃・十二指腸の粘膜を詳細に確認できるだけでなく、疑わしい部分の組織を採取して病理検査を行えますので確定診断に役立ちます。
慢性胃炎
問診で痛みの内容などについてくわしくうかがった上で、内視鏡検査を行って粘膜の状態、胃炎の程度や範囲を詳細に確かめ、肥厚や萎縮などの有無を確認します。組織を採取できるため、病理検査で確定診断が可能になりますし、回収した組織を検査することでピロリ菌感染の有無を確認できます。
慢性胃炎が進行して胃壁が薄くなる萎縮性胃炎になると、やがて腸上皮化生を起こして胃がん発症率が大幅に上昇するため、慢性胃炎がある場合には早めにピロリ菌除菌など適切な治療を行って炎症を進行させないことが重要です。
薬物療法
胃酸分泌抑制薬が症状改善には有効です。胃酸分泌抑制薬は何種類もあるため、状態などに合わせた薬剤を処方します。また蠕動運動などの機能を改善する薬なども組み合わせて、患者様に最適な処方を行っています。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌感染による胃炎を起こしている場合には、除菌治療が症状を改善して再発を防ぐという根本的な治療になります。粘膜の状態を確認してピロリ菌感染の有無を確かめるために内視鏡検査を行います。
ピロリ菌感染検査で陽性だった場合には、除菌治療が可能です。除菌治療は、抗菌薬2種類と胃酸分泌抑制薬を1週間、朝夕服用するだけですから、気軽に受けていただけます。ただし、除菌治療は失敗することがあります。そのため、服用が終わって一定期間経過してから判定検査を行います。成功した場合は治療が終了しますが、失敗した場合には抗菌薬を1種類変更して2次除菌治療が可能です。2回の除菌治療を含めると、ほとんどの方が除菌に成功するとされています。
生活習慣の改善
食べ過ぎや飲み過ぎ、コーヒーなどのカフェインを多く含む飲料、唐辛子など刺激が強い香辛料、脂質の多い食事などを控えます。胃の機能は自律神経の影響を大きく受けるため、疲労・睡眠不足・ストレスの解消も重要です。